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「ほんとういうと、みーは助けられたんだよ」
「なにそれ、ほんとう?」
わたしが5年生くらいだったと思う。
台風が来るといって、わたしたちは真っ暗な部屋の窓辺に持ち寄ったタオルケットで手づくりのベッドをつくり、そのなかで嵐の夜を待っていた。
窓ガラスがガタガタと震えて、ときおり瀕死の獣の鳴き声みたいに風が唸って、滝のような水流が窓の上辺からたえまなく落ちつづけるのを、くっついて見あげていた。
「お父さんとお母さんが話してたのを聞いちゃったんだ。階段から落ちそうになったのを、誰かが助けてくれたらしいよ」
秘密の花のありかをふたりで共有するような妙な高ぶりを感じながらも、雷が不機嫌な足音をたずさえて遠くのほうから迫ってくるのがとても怖かった。
一瞬の稲光のなかに千絵梨の顔がうかびあがったのを見て、わたしはタオルケットを強く抱きしめた。
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