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蒸し暑い夏の夜だったけれど、その時の冷たい汗の温度をなぜだか今もはっきり思い出せる。
「彼女は、って言ってたからその人は女性だね」
「女の人かぁ、どんな人なのかな?どうして教えてくれなかったんだろう」
子供だったけれど、その人にすぐにでもお礼を伝えなくちゃいけないんじゃないかと、そういう純粋な感謝の気持ちでいっぱいになった。
「それはわかんないけど、二人は今も時々会いに行ってるみたいな口振りだった」
「どうしてわたしを連れていってくれないのかな?」
あれからだいぶ時間が過ぎて、無事に成長しているからこそ、わたしが直接頭を下げるべきなんじゃないか、そう思ったら両親の行動に全然納得ができなかった。
「なんか理由があるんだよ、それにこの辺の人じゃないみたいで、お父さんがなかなか休みがとれないから次はどうしようか、なんて話してた」
「そっかぁ」
抱いた疑問に答えもないまま、一度はそこに蓋をしたつもりでいた。
「ドラマみたいだよね、ちょっとこれからも探ってみよっかな」
千絵梨はいたずらな笑みを浮かべていた。
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