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「大人になったらわたしその人に会いに行く」
「そんなもの、あと3年もすればなれるよ」
大人びた口調で答える千絵梨の頬に窓をながれる水流の透明な影がうつり、それが彼女をとらえがたい幻みたいに見せていた。
だけどそれから3年以上が過ぎてもわたしはすこしも大人になんかなれず、だからなのか、その女性の手がかりを何ひとつ得られないまま今に至ってしまった。
そんな煮え切らないひっかかりが、
きっとわたしを今もあの通りに向かわせているんだ。
「助けてくれた人に、お礼を言いたい」
そう言うと、お父さんはキッチンでしていたことのすべてをやめた。
どきりとして、ポケットのなかのあの紙を、
強くぎゅっと握りしめた。
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