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ちょっと強引に後ろに座らせて、自転車に跨がると左足だけでペダルを漕いだ。
自由にならない右足が邪魔でしかない。
「あの、どこを持てば……」
「テキトーにその辺掴めよ。あぶねーじゃん」
遠慮がちな手が背中辺りに触れた。
「なんか、甘い匂いがするね」
「匂い?ごめん、それ弟のゲロかも」
ユキはミルクを飲んだあとに高確率で吐く。弟のことを隠す必要がないのが気楽だった。
「ううんわたし、知ってる。
これって頑張ってるママの、匂いだよ」
背中にそっと頬を寄せられたような
微かな温度を感じた。
「ゲロじゃなくて?俺からママ臭が?」
ペダルを蹴りながら、吹き出してしまった。
「うん、同じ匂いがする。みどりさんと、一緒だ」
「ふーんそうなんだ。てか誰それ」
神崎さんの言葉を適当に聞きながら、自分からママフェロモンが出ているのを想像してむず痒くなった。
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