4 ふたり

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「左だけ、袖がしわくちゃだね」 「あぁ、これね」 自分の左袖を見た。 「なんでかいつも忘れるんだよ、右をやったら左を。左やったら右を。せっかちなのかなぁ」 「自分でするんだ。すごい」 「当たり前っしょ」 後ろで神崎さんが笑ったような気がしたから、俺は気分がよくなってガンガン左ペダルを漕いだ。 彼女を乗せて薫風ってやつのど真ん中を突き進むと、一度散った桜の花びらがまた足元からいっせいに舞い上がった。 彼女の自転車はサドルが低くて漕ぎにくかったけど、ギリギリでなんとか教室に滑り込む俺達を想像して、それも悪くないなと思った。
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