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ノートの表紙を見た彼は、予想外にもまたこっちに向き直った。
「そうだ、神崎さんだったね」
「あっ、はい」
入学初日のホームルームで一人一人自己紹介をしたけれど、わたしの名前を覚えている人なんてやっぱりいなかった。
「……どっかで会ったこと、ある?」
「え、なんで?ないと、思うけど」
「だよね」
久住君は右手でシャーペンをくるくる回しながら、もうノートを開いていた。
「おぉ!字めっちゃキレイじゃん。まとめるのすげーうまいし」
「ふ、ふつうだよ」
褒められたことが嬉しかったり恥ずかしかったりで、とたんに顔が熱くなった。
「てかさ、なんで神崎さんみたいな真面目そうな子がうちのクラスにいるわけ?」
「えっと……」
姉と遭遇する確率の低い場所だから。
わたしはそれだけの理由で、自分のキャラにはそぐわないこの学校を受験した。
でもそんな個人的なことを、久住君に言えるわけがない。
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