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「今動いても、逆に殺られるだけだ。無謀すぎる。
時を待つのだ」そして十郎は、竹筒をお七の胸元に押し付けた。
お七は、渋々了解した。
「それで、どうするつもり?」
お七の疑問には応えず、十郎はただ黙って義明を見つめていた。
それからある日の事、今川より出馬の要請があった。敵対する軍との小競り合いを、抑え込むと言うものであった。
義明は活気づいていた。
手柄を立てれば、名声にも箔がつく。
「追うのだ!逃してならぬ」細い木立の道に入って義明は叫んだ。
「殿、深追いは危のう御座る。ここはもう引き返しましょう」と蔵ノ新は進言した。
「馬鹿を申すな!敵を生かしてはならん」と義明が叫んだ時、誰かが馬の手綱を引いた。
ヒヒーンッ!と義明の馬が、大きく仰け反った。
「うわっ!」と焦った義明の目の前に、弓矢の矢が飛んできた。
ガッガシッ!
後ろの大木に、数本の矢が突き刺さった。
「十郎か!」蔵ノ新が叫んだ。
十郎が手綱を引かなかったら、義明は串刺しになっていただろう。
そして。また矢が放たれた。
十郎は瞬時に飛び出し、矢を刀で叩き落しながら、敵兵に飛びかかった。
シュッ!ガシッ!
数名の敵兵は、その場であっという間に倒された。
それはまさに、雷神の様な身のこなしであった。
「み、見事じゃ十郎!良くやった」義明はそう言いながらも、肝を冷やしていた。
そしてそれを機に、義明は兵を引き上げたのであった。
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