第3章 誘拐

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第3章 誘拐

ある日、城下の離れに旅芸人の一座が来ていると知り、しずめは女中を連れて、芝居小屋を訪れた。 先日の、あのお七の踊りが、今でも目に焼き付いている。 初めて憧れの様なものを、しずめは感じていた。 芝居小屋は盛況だった。 そして相変わらず、お七は輝いて見えた。 そして演目が終わり、出口でしずめは声を掛けられた。 「お嬢さん、よかったらお七に会わせてやろうか?」と男が言ってきた。 「え?本当ですか?」しずめの目が輝いた。 「駄目ですよ姫様。もう戻らないと」と女中が断ろうとすると「少しだけ、ね!お願い」としずめは両手を合わせて頼み込んだ。 「なあに、じきに戻りますよ。さあ行こうか、お姫様」と男は陽気に笑った。 「はい」 そして2人は、芝居小屋の裏手に回って行った。 しかし、しばらく待っても、しずめは戻って来なかった。女中は心配になり楽屋を訪ねようとすると、小屋の世話人の男が「え?一座ならとっくに旅籠屋に戻ったよ」と言ってきた。 「ええ?そんな…」女中は慌てて、その旅籠屋まで押しかけた。 「え?姫様が?いいえ、来られていませんが」お七も連れのものも、誰も知らないと言う。 た、大変だ。 女中は事の重大さに、腰を抜かしてへたり込んでしまった。
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