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「兄貴、上玉を見つけて来やしたぜ」男は、両手を後ろ手に縛ったしずめを、目の前に押し倒した。
「あっ」としずめは、床に尻餅をついた。
古びた小さなお堂の様な建物で、人が住んでる気配はない。彼らはここを、根城代わりに使っていた。
兄貴と呼ばれていた銀次は、さらった女を売りさばく人身売買の常習だ。
銀次はしずめの顔を上げて、まじまじと見つめた。
「うむ、中々の女だ。歳頃も一番高値で売れそうだな」と銀次はにやついた。
「こんな事して、ただで済むと思っているの?私は壬生の娘よ!」と、しずめはいきり立った。
「へえ、そうかい。姫様なら、こんな所をうろうろしてるもんかい。それに、もし姫様ならもっと高く売れるってもんさ。がっはっは!」銀次は大笑いした。
そして「おい安吉、この女を隣の納戸に閉じ込めておけ。俺は客に交渉して来る」そう言って銀次は、さっさと出て行った。
しずめが拐われたと聞いた義明は激怒して「早く探し出せ!そいつらは見つけ次第打ち首じゃ!」と騒ぐ始末だ。
十郎もその話を聞きつけた。
若い女を狙うなら、手篭めにするか身売りか?
十郎は、その手の筋を当たった。
夜になり、銀次が客を連れてきた。
「先ずは品定めをどうぞ。良ければ残りの代金を頂きます」
客は呉服問屋の大旦那。50を過ぎても若い女に目が無いときている。金に糸目はつけないだろう。
銀次はそっとほくそ笑んだ。
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