第1章 野里 十郎という男

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十郎は、武内邸の離れの小部屋に通された。 「何か必要があれば、お申し付け下さい」三吉はそう言って、部屋を出て行った。 十郎は刀と脇差を置いて、畳にごろんと寝っ転がった。 さて、これからどうするか? 壬生の内情は、ある程度調べてある。しかし人のなりについては、直接見定めねばなるまい。 やはり武内という男、この壬生の要であろう。 十郎はそう捉えていた。 すると「誰?」と子供の声がした。 十郎が顔を起こすと、女の子が覗いていた。 まだ8歳位であろうか? 愛くるしい顔をしている。 「あなた誰?」女の子はもう一度聞いた。 「俺は野里 十郎。今日からここに厄介になる。お前は武内殿の娘か?」と十郎も聞き返した。 「うん。私はさより。あなた強いの?」 「さあ、どうかな?」十郎は、はぐらかした。 「そう強くは見えないよね」さよりは笑った。 そして十郎も、笑い返した。 それはまるで、妹の千世( ちせ ) を見ている様であった。
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