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prologue
『何故、お前が生きているの』
口々に囁かれる言葉。突き刺さる視線。
呆然とそれを受け止めながら、彼自身が一番、そう思っていた。
何故、自分が生きているの。
ぼくは、にいさまのためにいきていたのに。にいさまをまもるためにそんざいしていたのに。
何故。
『……お前が、死んでいれば良かったのに……!』
自分を産み、愛してくれていたはずの母の声は、彼の胸にすとんと落ちて来た。
ぼくが、しねばよかったのに。そうすれば、にいさまが。やさしくてつよいにいさまが……。
死ぬはず、なかったのに。
深い深い、森の中。暗い暗い世界に、煌々と輝く銀色の月。この世界を唯一照らす月の光が暴き出す、横たわった一人の少年と、彼を抱き上げる母の姿。周囲は少年の身体から流れ出た液体で真っ赤に染まっていて。
立ち尽くす彼の、ぼんやりとした視界の中で、ただ美しくさらりと揺れていた少年の銀色の髪だけが、同じ色の月の光にきらきらと輝いていた。
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