第一章 脱出 甲斐の国

10/47
前へ
/47ページ
次へ
 真田を捨て、一緒にいた小山田信茂のもとへ向かう。外様の真田はいつ裏切るかわからないと吹き込まれてのことだった。小山田信茂に裏切られ、勝頼は自刃して果てた。  勝頼が新府城を使ってやろうとしていたことの唯一の理解者、真田昌幸は、長篠の戦いで豪傑肌の兄たちをことごとく失っていた。2m近い大太刀を担いで、信州先手組として、常に武田の先陣を切っていた真田の男たちだ。風林火山の風の真田である。長篠の戦いで織田軍の銃兵陣地を二の柵まで喰い破って真田家は力尽きた。兄たちの首を持ち帰った従者たちが寺で次々に腹を切って死ぬ地獄絵図を目に焼き付け、養子から舞い戻ってきた真田昌幸は、死ぬまで徳川を許さなかった。徳川の大軍を何度も信州の真田の城で迎え撃ち、焼き払われる城下を目の当たりにした信州人の怒りを解き放った。信州真田家は徳川の大魔縁となり、大阪城の真田丸で戦争芸術の華を咲かせることになる。  織田信長は、カッコをつける男だった。謀殺、陰謀、なんでもありだ。和議の会合に呼ばれたら粛清、誅殺、だまし討ちが日常である。多くの者が信長に謀反を起こした。起こさなければ、呼ばれてだまし討にあって殺されていたからだ。信長は、人にも任せたが、自分自身でも手ずから良く人を斬った。へし切長谷部は、口答えした茶坊主が隠れた棚ごと信長が斬った刀だ。     
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

60人が本棚に入れています
本棚に追加