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香坂の喉に冷たいものが当たった。刃だ。
「何をしている。さ、松丸君、こちらへ」
香坂が身をかがめ、居合い一閃。抜き放たれた白刃をとんぼをきって男がよける。
「赤城弦月」
木綿の綿入れに地味な羽織。腰には両刀と鍔と十手のような返しをつけた鎧通しを二本腰帯びている。鍛え抜かれた身体に鋭い眼光。松丸君警護の忍び、赤城弦月だ。
弦月が腕の中にしっかりと松丸を抱く。
「松丸君、お気をつけを!こやつ淫獣むりちぅです! 松丸君は、私が命にかえてお守りします」
「む、むりちぅ?!」
香坂が目をむいた。松丸君が、香坂を見上げる。淫獣むりちぅなる生き物を想像してみる。アナグマが両手を広げてたちあがり威嚇するようなかんじだろうか。香坂のような派手なキモノを着て、むりやりちゅうしてこようとする妖怪だ。
「なんだと、コラ、この妖怪うしろだっこが!」
松丸君は、弦月を見上げた。うん、熊かな。弦月はよくうしろから抱っこしてくれる。
弦月の地味なキモノ姿のクマさんが、うしろから抱っこしてくるのを想像してみた。
むりちぅと、うしろだっこ。二匹の妖怪のへたれぬいぐるみが、火花を散らしている。
「やめろやめろ、おまえらなんでそんなにいつも仲が悪いんだ」
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