第一章 脱出 甲斐の国

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 信長は何度も絶体絶命の瀬戸際で、自分から先頭に立って、敵の大軍に斬り込んでいった。天王寺で本願寺の勢力に囲まれた時に、先頭に立って斬り込んでいって、膝を撃たれたこともある。南蛮渡来の鎧のおかげで助かったのだ。自分自身が先頭に立って大軍に突っ込んでいく度胸があった。新しいもの好きで、どんどん家来に分け与えた。  信長はカッコつけだった。カッコ良かった。  武田勝頼は、高天神城を見殺しにした。武田の男たちは勝頼を見限った。 「勘違いするな。武田はもう滅びたんだ。あんたは俺の主君じゃない。これからの主は俺が決める。俺の親父は、百姓だったが顔が良かったんで、あんたの親父の目にとまって、城主にまでなれた。だがな、勝頼の馬鹿が、武田家臣団から集めた人質三百人、全員、三の郭に閉じ込めて火付けて焼き殺しやがった。逃してやればよかったんだ! 許してやればよかったんだ! そうしたら、恩義に感じた連中が逃げるのを助けてくれたかもしれないんだ! おかげで武田直系の人間は甲斐中の人間から恨まれてる。憎まれてる。この甲斐中の人間があんたを殺したがってる」。  香坂は松丸君を押し付たおした。両手をまとめて上に片手でつかんで片ひざを股間にねじ込んで動きを封じる。 「くっ……」  松丸君が苦鳴を漏らした。     
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