第一章 脱出 甲斐の国

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 重臣たちの反対を押し切って、織田徳川連合軍が築いた野戦陣地に戦いを挑み、武田の男たちの三人に一人は帰らなかった。残された武田の男たちは、復讐心に燃えていた。  昨年、徳川が高天神城に攻めてきた時に、勝頼が馬を曳けと叫んでいたら、武田の男たちは、死力を尽くしただろう。勝頼は、織田との戦いから逃げまくった。負け知らずだった武田信玄を知るものたちから見れば、腰抜けだった。武田信玄は甲府には本城を持たず、館しかもたなかった。自分の領地では戦わない。攻めて攻めて、敵国の領地で戦う。  人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり  武田信玄は、一流のカッコつけだった。カッコつけが災いして、徳川の城を攻めた時に、夜毎城から聞こえてくる笛の音を聞きに行っていたのがバレて、十三匁弾で狙撃されて死んでしまった。武田信玄は、風林火山の旗印を始め、カッコつけの名人だった。  男たちは、武田信玄のかっこよさに惚れたのだ。  高天神城を見捨てた勝頼を、武田の男たちは見限った。勝頼は、武田が滅ぼした諏訪の娘の子だった。武田の男ではない。諏訪明神の神主だった諏訪氏の血だ。所詮、神主の子よと陰口をたたかれていた。勝頼が重宝したのは、外様の信州真田昌幸だった。     
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