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瞼の裏が明るくなった。
ぼんやりと意識が覚醒していく。
ああ、そうだった、と思い出した。
私の目元を覆うそれに、手をかける。上へとずらせば、途端に視界が明るくなる。
パチパチと瞬き。
私は、ソファに身をしずめていた。そこは、狭い部屋だ。私の座るソファしかない。手に持つのは、先ほどまで目元を覆っていた、アイマスクのような形の黒い機械。
しばらく、ぼんやりと余韻に浸っていたが、やがて立ち上がり、部屋を出る。
廊下には、同じようにたくさんの扉。きっとその中には、私と同じように機械をつけた人がいるはずだ。
私は、来た時同様、受付のカウンターへと立ち寄る。
「いかがでしたか?」
制服を着た女性スタッフが立っていた。
「いやあ、どんなものかと思っていましたが、良かったです」
私は答えた。
「海も、カキ氷も、夏祭りも、本当に懐かしかった。良い体験をさせてもらいました」
「まだまだ発展途上のVRシステムですが、お楽しみいただけてよかったです」
女は安心したように息をついた。
受付のカウンター。そこには、「あの頃の夏を、VRで楽しもう!」というポスターが貼られていた。
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