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第1話 プチ愛人
「あんた、何考えてんの?!」
声が大きかったのか、池袋駅前を行く人が、驚いた様に振り返った。
私はそんなに粗暴な性格では無い。いや、どちらかと言えば穏やかだと思っている。
でも、思わず自分の母親に向かって、スマホ越しに怒鳴っていた。
10分ほど前、母親から電話があった。
「お父さんが出て行ったの」
察しは付く。
父親は実直でとても真面目な性格だ。容姿も人並みというか、まあ、パッとしない。
一方、母親は奔放だった。42歳なのだが、かなり若く見られるし、美人だ。
そもそも何故このふたりが夫婦になったのか、不思議だったのだが、結果は良いものでは無かった。
母親の浮気など一度や二度では無い。それでも、父親は都度、仕方が無く許していた。
いや、実際は許していたのではなく、呆れて、放って置いたのだろう。結果、夫婦仲は寒々しく、そんな家が嫌で私は家を出て東京の大学に進学した。
人間には限度というものがある。当然、父親の忍耐にも。
いつか、こうならなければ良いけど、と心配していたのだが、やはり、という気持が先に立った。
「とても口うるさい人だったから、清々したわ」
そう言ってから、母親は新しい恋人について話し始めた。
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