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「明後日はよろしくな。まぁ、お前さんのチームはおっかねー女が二人もいやがるから勝てねえかもしれねーけどよ」
「そんな……ベックマンさんのチームだって全勝してるじゃないですか」
ヒロの言う通り、チーム・ベックマンは今の所全勝している。というか、彼のチームは銀級でも上位で、何度も金級まで上がっている。
金級に上がりたいチーム・ヒロにとって、高い障害だ。
「銀級で勝てても、金級じゃ通用しねーんだよなー」
「……」
そう呟く彼の瞳には、全てを悟ったような諦めの感情が窺えた。だが、火が消えている訳じゃない。轟々と激しく燃えてはいないが、しぶとく灯っているロウソクの火みたいに、確かな熱量があった。
「あー、別に銀級を馬鹿にしてる訳じゃねえよ。俺なんてどれだけ銀級にいたか数えらんねえし。ただ、俺も今年で最後だからよ、一度だけでも白級に上がってみたかった」
「最後……?」
「あれ、知らねーか。まあ大抵の奴はしらねーよな……俺はもう二十二になる、現役勇者になる為の最後の歳だ」
最後と聞いて首を傾げていると、笑いながら教えてくれた。その意味を知ってハッと驚いていると、ベックマンは煙を吹かしながら、
「まぁ、今の時点で退学は決まってんだけどな」
軽い口調で告げた。
ベックマンは今年で挑戦出来る最後の歳。
だが、現役勇者に合格するには年間を通して白級に居続けた回数が多いチームが選ばれる。スタートしてから既に三ヶ月が経ち、未だに銀級にいる彼が合格するのは絶望的だった。
「初めに謝っておきます。これは不躾な質問ですけど、どうしてまだ戦っていられるんですか」
――もう、勇者になれないのに。
そんな意味が含まれたヒロの言葉に、ベックマンは小さく笑みを浮かべると、
「どうして……か。そう言われると、どうしてなんだろうな」
「……」
「まぁ俺のチームの可愛い後輩共にまだまだ教えることがあるのと……ただの未練かもな」
「そう……ですか」
「じゃ、俺はもう行くわ。明後日の階級戦、楽しみにしてるぜ」
煙草を握り潰すと、彼は踵を返す。
ベックマンの後ろ姿を眺めながら、ヒロは思いに耽る。
彼は一体、ここまでどんな道を辿って来たのだろうかと。
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