375人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
「……」
「……」
「おいヒロ、あの怪力女はどうしちまったんだ?一昨日からやけに大人しいが」
「うーん、何か迷ってるみたい」
明日の階級戦を控えたチーム・ヒロのメンバーは、作戦会議も含め四人で夕食を取っていた。
しかし口を開いているのはジャンばかりで、ヒロは相槌を打ち、イリヤは黙々と食べ、いつも罵声を浴びせてくるアイシャは沈黙したまま上の空だ。彼女が大人しいのは珍しく、ヒロに尋ねてみるが不明瞭なまま。
ジャンははぁーーと長いため息を吐いて、
「おいおいこんなんで明日は大丈夫なのか?俺達が今月に金級に昇格するには、同じように全勝しているチーム・ベックマンに勝つのが必須だ。俺は何度か戦ったことあるけどよ、あのオッサンはかなり厄介だぜ」
「あの人の何が脅威なんだ?」
ヒロが疑問を投げかけると、ジャンは腕を組んで当時のことを思い出し、眉根を寄せながら説明する。
「あのオッサン事態の能力はそこまで対したことは無え。アイシャやイリヤの方が断然実力も才能も上だ。けどな、あのオッサンは戦況把握、状況判断、事前予測に優れてやがる。要は、チーム戦の戦い方がめちゃくちゃ上手い」
「私も何度か戦ってるけど、あの人に勝ったことはない。多分、タイプ的にはヒロに似ている」
「あーそうかもな」
「ボクに?」
イリヤの言葉にジャンが同意する。どこが似ているのか分からず首を傾げているヒロに、ジャンがソーセージを齧りながらこう言った。
「器用貧乏な所とか、力押しよりも頭を使って小技での倒し方だな。まあ、お前よりあのオッサンの方が全然強ぇけど。俺が上を目指すのをヤメたのも、あのオッサンの存在がデカイからな」
「そうだったのか……」
ジャンが自信に満ち溢れていた当時、チーム・ベックマンに成す術もなく瞬殺されている。
彼等のチームにさえ勝利するビジョンが浮かばないのに、そのベックマン達でも勝てない相手が上にはうじゃうじゃいるのを知ってジャンを猿山の大将に堕ちたのだ。
「まあそう言うことだから、俺だって明日の階級戦には気合いが入ってんだ。だから頼むぜ、アイシャ」
「……」
「……おいヒロ、こいつ本当に大丈夫か」
全く反応しないアイシャに、ジャンとヒロは一抹の不安を抱いていた。
ただ一人、静かにアイシャを見つめるイリヤを除いて。
最初のコメントを投稿しよう!