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ナツハナビ。
『つーことで待ち合わせ5時で、お祭りの櫓の下だってさ』
元同級生の柳沢敦也(やなぎさわ あつや)からLINEが入ったのを確認したぼく津嶋満希(つしま みつき)はほんのちょっとの嬉しさとさみしさを感じていた。
卒業してみんな離れ離れになってから初めての帰省と夏祭り。
いつもつるんでいたメンバーで集まれるやつは集まろうって言い出したのは同じく元同級生の松田 十糸子(まつだ としこ)だということだった。
『了解、後でな』と柳沢に返してから小さくため息をつく。
小さな田舎町のここは小・中・高、と同じようなメンバーで顔を合わせるから自然と男女共に仲良くなっていく。
誰と彼がくっついただとか別れただとか、そんな話題にイマイチ乗り遅れていたぼくだって好きなヒトくらい、いた。
柳沢だ。
___誰にも言えないけど。
つるんでいた男子4人、女子4人のグループの中で、いつもその中心にいたのは男子は柳沢、女子は松田だった。
ふたりは付きあってるんじゃないかってもっぱらの噂だったけど本当かどうかはわからない。
一見チャラそうに見える柳沢だけどじつはすごく優しくて気配りのヒトだって言うのはぼくたちのみんなが知ってる。
だからいつだって人気者でみんなが柳沢と仲良くなりたいって思っていたのだ。
高校を卒業して会うこともなくなって新しい環境でそれなりに友人もできたけど、やっぱり地元の友達は落ち着けていい。
「で?なに……浴衣を着てくること、って本気で言ってんの」
LINEに書かれた詳細に目を通すと集合時間のほか、持ち物だとか着てくるものだとか事細かに書かれている。
昔から世話焼きの松田のことだから、もしかしたら「夏祭りのしおり」なんてものも作ってくるかもしれない。
「母さん、浴衣ってあったっけ?」
「え?浴衣?着るの?」
「うん、なんか、みんな着て来いって」
母親に浴衣を出すようにお願いすると想像外に嬉しそうに笑った。
「あるある!着せてあげる!満希の浴衣姿かわゆいもんねえ~」
「なにいってんだよ」
「ほんとほんと!お母さんも楽しみ!」
きゃっきゃとはしゃぐ母親を尻目にぼくは空を見上げる。ぬけるような青空に雲が一つもない。
今夜の花火大会はきっと晴れるだろう。
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