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誰といたってぼくの視線は柳沢の姿を追ってしまう。
彼は背が高いから、どんな人ごみでも頭ひとつ浮かんでいてすぐに見つけることができた。広い背中を追うことに安心さえ覚える。
「どこで花火見るって行ってた?」
「う~んとねえ、海岸のほう?」
「そっか」
どんどん暗闇は加速していきまわりがちょうちんの赤い色で照らされている。
今までの景色とは違っていく様が、少しだけ怖い。
はぐれたかもしれない、と気がついたのはそれから間もなくだ。みんなの姿が見えなくなっていた。
「まずいな」
花火の始まりが近いこともあって身動きひとつとるのさえ窮屈な人の流れに巻き込まれていた。
「あっ」
小さな悲鳴が聞こえたと思ったら幸田の指が離れてお互い違う波に飲み込まれていく。
「幸田!」
1人離されてしまったぼくはどうしようもなく人の波を掻き分けてその列から飛び出した。
屋台の裏側に出るとそこは灯りの届かない静かな場所だった。
ほんの数メートル離れただけでこんなにも人気がないのかと驚くくらいだった。
「とりあえず、電話しなきゃ……」
袂に手をかけたときだった。
ぐいっと突然腕を引かれさらに奥へと引き込まれそうになる。
「うわ!」
驚いて手を払ったら驚いたことに、そこにいたのは柳沢だった。
「いってーな」
「柳沢?!ご、ごめん、ビックリしちゃって」
信じられない人の登場にぼくの思考は追いつけないでいる。なんでここにいるんだろう。なんでこんな人ごみの中、ぼくをみつけることができたんだろう。
「こっちもごめん。驚くよな、突然」
「う、うん、ほんとにびっくりした」
落ち着いてきたらおかしくなって、2人で顔を見合わせて笑いあってしまった。
「よかった、合流できて。はぐれちゃってどうしようかと思ってた」
「うん、おれも」
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