83人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
目の前に柳沢のまつげが揺れているのが見える。
唇に何か柔らかいものが触れている。
ぼくの頬を包み込むこの大きな手の平は___。
「目、くらい……閉じろ」
低く囁く声に慌ててぎゅっと閉じたら、触れていただけの唇の間から温かいものが潜り込んできた。
湿った音を立ててぼくの口内を犯すそれに夢中になってしがみつく。
呼吸が苦しくなって胸を押し返したらそれは名残惜しげに離れていった。
荒い息の中、上げた視線の先には今まで見たことのない柳沢の顔があった。
「や、なぎさ……わ?」
「好きだ」
「え……?」
「お前が好きだって言ってんの」
続けざまに夜空を照らす轟音が言葉にかぶさって消えた。
何か大事な言葉が紛れていた気がしてもう一度問い返すと、柳沢はそっぽを向いて俯いてしまった。
「なんでもない」
こぼれた声が力なく轟音に消える。まるで怒っているかのような横顔にぼくの胸は締め付けられた。
「違う。ごめん、なんか夢なんじゃないかって信じられなくて……都合のいいように聞き間違えたんじゃないかって……」
慌ててしがみつくと傷ついた瞳をした柳沢がぼくを射すくめる。
「何言ってるか、自分でわかってる?」
「わかってる」
「おれが何を言ったのかもわかってる?」
「……わかってる、と思う」
じゃあ、そういうことだよな。
噛み締めるかのような呟きともに、同じ男として驚くほどの強い力でぼくは柳沢に抱きすくめられていた。
少し汗ばんだ彼の匂いが鼻腔一杯に広がってこれが現実だと教えてくれる。
最初のコメントを投稿しよう!