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香山部長はここに来ると頑張れると言ってた。 今もどうしたら私に信じてもらえるのかを考えているのだろうか。
ここにいると時間の流れが変わるという意味がなんとなくわかる。
あれから香山部長と一言も話していないのに、今、私の心は落ち着いている。
香山部長にも私の気持ちが伝わっていると思う、私の心の中に香山部長の心が伝わってくるから。
私達に言葉はいらない。
どのくらい『曽木発電所遺構』を眺めていたのだろう、香山部長のスマホから着信音が聞こえてきた。
「えっ、もうそんな時間? わかった、そっちに行くよ」
私も慌てて時計を見ると、すでに5時を過ぎていた。
「いつの間にか時間が過ぎちゃったね。 帰ろうか?」
「はい」
香山部長は何も聞かなかったし、私も答えなかった。
答えはここに来ればいつでもわかるから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あれから、4年。
私は東京の大学にはいかず、鹿児島の保育科のある短大に進学して、今は伊佐保育園で保育士として働いている。
「明日香ちゃん、こっちを向いて」
「はーい」
パシャ。
時々子供達の写真を撮って保育園新聞に載せている。
保護者からも好評だ。
香山部長(今は拓人さんと呼んでいるけど)は、あと半年で大学を卒業する。
卒業後は伊佐市の市役所に就職が決まった。
伊佐市の映画を作る夢の実現のために今も張り切っている。
私たちは毎年夏になると『伊佐発電所遺構』に行って変わらぬ思いを確かめ合っていた。
2年後の夏には拓人さんと結婚する予定。
葵、東京の友達、伊佐市に来てからの友達、披露宴には沢山の友達を招待するつもり。
伊佐市に来て本当に良かった。
私は伊佐が大好きです。
完
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