15人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃ、行ってくるね」
「気をつけて。 あまり遅くなるなよ」
東京の大学の話はなかった様に、お互い普通に振る舞った。
家を出ると、胸がズキっと苦しくなった。
少し前まで希望で満ち溢れていたのに……
東京の大学に行けなければ香山部長とは4年間離れ離れになる。 きっとその間に香山部長は彼女をつくってしまう。
ダメ、香山部長を信じなくちゃ……だけど……
不安な思いのまま、待ち合わせ場所の伊佐高校に着いた。
「真尋、父が乗せてってくれるって。
さあ、乗って」
駐車場に停まっていたバンのスライドドアが開き、香山部長が話しかけてきた。
「よろしくお願いします」
香山部長のお父さんに挨拶をして車に乗り込むと、香山部長のお父さんは後ろを振り向きにこっと頷いた。
香山部長のお父さんへの緊張と、東京の大学に行けないショックからあまり話が続かない。
「真尋、どうした?
元気がないように見えるけど」
香山部長が心配そうな顔を私に向ける。
「あっ、大丈夫です。
元気ですよ」
車の中で暗い話をする訳にはいかない、無理やり笑顔を作ると、香山部長は一瞬困った顔をしたけど、すぐにいつもの香山部長に戻った。
「今から行く『曽木発電所遺構』は夏の間だけしか見る事が出来ないんだ。
それ以外の時は水の中に眠っているんだよ」
最初のコメントを投稿しよう!