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部屋のゴミと家財が一掃されて何もなくなった長屋は、すがすがしくなった。
ものがなくなると虫もどこかに消えていく。
もう、マスクは必要ない。
そこに、依頼人であるオーナーと、故人の娘だという二人がやってきた。
草野が片付け中に見つけた貴重品を渡した。
「位牌、現金、通帳、日記帳、指輪がありました」
「日記帳はいらないわ。捨てて」
50代と思わしき娘は、古びた日記帳を横に避けた。
アヤナは黙って娘を見ている。
娘は通帳の中を見て、ため息をついている。
「ほとんど入っていない……」
現金も小銭しか残っていなくて、相当、苦しい生活だったんじゃないかと想像できた。
「位牌は父のだわ」
娘は、位牌を横に置くと、オレンジ色の石の指輪と手に取って眺めた。
「この指輪もあったの?」
「はい。寝室の机から見つかりました」
俺は、見つけた時の状況を話した。
「これ、ガラスの偽物よ」
「そうだったんですか」
「私が子どものときに母の誕生日に贈ったものなの。まだ持っていたのね。とっくに捨てられたと思っていた」
「え?」
俺はアヤナを見た。
アヤナは黙っている。
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