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「あの、ハルカさんって……」
「私の名前だけど」
「あ、そうでしたか。あの、アヤナさんのことはご存知でしょうか?」
「アヤナは、亡くなった母の名前よ」
「え?」
俺はアヤナを視た。
どう見ても、中学生の年頃なのに……。
――と、思っていると、だんだんと老けていき、老婆になった。
そして、ニタアと笑った。
よく見ると、白いワンピースじゃなくてシュミーズだ。
(わ! 騙された!)
老婆だと手伝ってもらえないと思ったのか、少女の姿で俺の前に出てきたのだ。
姑息な。
「結局、ゴミしかなかったってことね」
アヤナが日記帳を見ていたので、俺はピンときた。
「いえ、その指輪は、アヤナさんの宝物です。アヤナさんは、それをどうしてもあなたに渡したかったんです」
「そう?」
「もしかしたら、日記に何か書かれているかもしれませんよ」
「そうかしら」
娘は、日記を読んだ。
最後の日付は亡くなる一週間前。
そこを読んだ。
『ハルカ。会いたい。会いたい。会いたい。お前が昔くれた指輪が心の支えだ。お前はぬいぐるみが大好きだったから、今でも作って待っている。はやく会いにきておくれ。会いたい。会いたい。会いたい……』
「お母さん!」
娘の目から、ブワッと涙があふれた。
「私、忙しくて、全然、会いに来なくて……。だって、この部屋、汚いから、近づきたくなくて……。でも、もう少しくれば良かったね。ごめんなさい、お母さん」
その言葉を聞いたアヤナおばあちゃんは、満足したように消えた。
(ああ、心残りが片づいて成仏したか……)
すっかり騙されたけど、アヤナおばあちゃんはいい霊だったなあと消えたあとをぼんやりと眺めた。
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