18.死神

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 アヤナが言うように、隣の部屋では若い男の幽霊が(ひざまづ)いて上を向き、苦しんでいる。 『ウー、ウー』 「どうした? 苦しいのか?」 『ウー、ウー』  幽霊は、目を剥き、口から泡を吹き、とても混乱しているように見える。  会話できる状態じゃない。  幽霊の足元には、スーツケースが置かれている。  生きている人間から発せられる僅かな暖気を、そこから感じた。 「このスーツケース……、変な感じがする……」  確認しようと、首を伸ばしてスーツケースに近づいた。  その、伸ばした俺の首に縄がひっかけられた。 (え? この縄、何?)  何が起きているのか分からなかったが、絞められて息苦しくなり、異常な状況になったことを思い知らされた。  アヤナが、「こいつ! 正直を殺そうとしている! 放せ」と、後ろで騒いでいる。  後ろで俺の首を絞めているのは土屋だ。  幽霊が騒ぎに気づき、苦しむのをやめてこちらを見た。 『ヒ……、ヒヒヒ……』  苦しむ俺を見て笑っている。 『ヒヒヒ……。ヒッヒッヒ……』 「ウグウ……」  俺は、声も出せない。  緩めようと紐と首の間に指を入れようとするが、その隙間はどこにもない。 「やめろ! 放せ!」  アヤナが必死に喚いて土屋を叩いているが、土屋には視えもしなければ聴こえもしない。なんの効果もない。
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