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「でも……、もう、昔のことだよ……」
「結婚するって、お互いの過去も未来も共有することでしょ? あなたの過去は私の過去でもある。そして、未来も。アヤナは、あなたにとって大切な人の名前。それなら、私にとっても大切な人」
嫁は、腕の中の赤子に笑いかけた。
「ねー、アヤナちゃん」
赤子がキャッキャと笑った。
「ほら、本人もアヤナがいいって、喜んでいる」
「本当にいいのか?」
「うん」
「よし。じゃあ、アヤナに決定。アヤナ! パパだぞ! 大きくなった時、変な男に騙されるなよ」
「今から心配しているの?」
嫁が呆れている。
俺は、嫁の腕からアヤナを抱き上げた。
「アヤナー」
ほおずりすると、「フニャア」と、アヤナが笑った。
一年もすれば、俺の背中が大好きになるのだろう。
起きてこない俺の布団を剥いで、『起きろ! 正直!』というのかもしれない。
「いや、『正直』とは、絶対に呼ばせないからな。俺のことは『パパ』と呼ぶんだぞ。なあ、アヤナ」
―― 終わり
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