112人が本棚に入れています
本棚に追加
トラックが長屋の前に停まった。
「着いたぞ」
外に出て長屋を見る。
「カギは預かっている」
草野が玄関のカギを開けると、中はゴミ屋敷だった。
「うわー」
思わず声が出てしまった。
「声を出すな。近所の人が驚くだろう」
「すみません」
「マスクと軍手と頭のタオルは必須。場合によっちゃ、ゴーグルもあるぞ」
汚物槽の中にでも突入しそうな完全装備で中に入る。
玄関からゴミが山になって床がかさ上げされている。
「オーナーも、ここが長屋でなかったら建物ごと取り壊して、全部捨てたいぐらいだとこぼしていたよ」
「そうでしょうね」
「片っ端からゴミを90リットルのビニール袋にいれていけ。ゴミじゃないものは黄色い袋に入れろ」
「分かりました」
山のような透明ゴミ袋と黄色いズタ袋を渡された。
(こんなに使うの?)
ゴミ袋は300枚もあった。
「時間は2時間だ。2時間ですべてのゴミを運び出す」
「2時間しかないんですか」
「そうだ。急げ」
トングでは追い付かないから、触りたくもないゴミを手でつかんではゴミ袋にひたすら入れていく。
入れても入れても終わらない気がする膨大なゴミの山。
何かを動かせば、その下を何かが逃げていくが、見なかった振りをする。
玄関、台所、ふろ場にもゴミが置かれていて、料理ができたのかと不思議になった。
「どうやって生活していたんですかね?」
「住民の生活ぶりなど考える暇はないぞ!」
「はい!」
考えるな。動け。手を動かせ。
そんな仕事だ。
最初のコメントを投稿しよう!