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位牌が出てきたのには、さすがに吃驚した。
「位牌はゴミじゃないですよね」
「そういうものは、住民の相続人に渡すことになるけど、黄色い袋じゃあれか……」
「相続人がいるんですか」
その人が片づければいいのに……、って、それじゃ商売にならないか。
さすがに位牌を黄色い袋に放り込むのは気が引けたので、草野がトラックに手で運んだ。
長屋の間取りは2DK。
台所が終わると、寝室に入った。
草野は隣の居間を片付けている。
寝室には洋服やカバンがぐちゃぐちゃに積んである。
「服が多いなあ」
これも片っ端からゴミ袋に放り込むのだが、ここでようやく亡くなった住民が女性であることが分かった。
女性の服。
女性の下着。
どれも、畳まれもせず洗濯もいつしたのか分からない着古し。
特に興奮するような代物はない。
たまったゴミ袋を外に出すときに草野に聞いた。
「住民は女の人だったんですね」
「住民のことは詮索するな」
「はい……」
見ざる聞かざる言わざる。
それがこの仕事を続ける極意なのだろうか。
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