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「このぐらい大したこともないし、ほっといたらそのうち治るから」
「おい!何やってんだ!サボってんじゃねぇぞ!!新入りっ!」
少女の言葉に被せるように水夫らしき大男が怒鳴るのに、メリッサは思わずびくりと首をすくめる。
男は甲板から突き出た巨大な煙突の脇に立っていて、その位置からはちょうどメリッサは少女の影に隠れて見えなかったようだ。
苛立ちを露わに大股で近づいてくると、メリッサに気付いて足を止めた。
少女の前に立つメリッサと、その後ろでオロオロしているメイドを順に見やる。
メリッサの身なりとメイドの存在から乗客――それも一等船室の上客であることに気づいたのだろう。
一瞬バツが悪そうに顔をしかめてから、
「あ、こりゃあ失礼しました。この娘が何か失礼でもしましたかい?」
そう言って揉み手をしながら近づいてくると、ヘコヘコと頭を下げてくる。
それにメリッサは「いいえ」と短く返した。
男のあからさまな態度の変化に胸が悪くなる。
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