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「怪我をされているようだったので気になって。声をかけただけです。私は一応薬師なので。あの、よければ私に手当てをさせてもらえませんか?」
少女自身よりも、こちらと話した方が話が早いと判断して男に向き直った。
それに対し、男は「ハッ」と鼻で笑うと、
「いや、お優しいことですが……わざわざ薬師様に手当てをしてもらうほどの怪我でなし。だいいちコイツは借金のかたに下働きをしている娘なんですよ。お代が払えやしません」
「まあ、借金を」
メリッサは大袈裟に驚いてみせた。
実際にはさもあらんといった認識だが。
「でも治療費は入りませんわ。だって私の趣味みたいなものですもの。それに見たところとても治療が必要でない傷には見えないですし」
言ってちらりと少女の手に視線を走らせる。
「酷い火傷!こんな船の上で潮風に晒されて雑菌が入り込みでもすれば傷口から腕が壊死して切り落とすことになるかも。それどころか菌が内蔵に回ってしまえば臓器不全で命の危険さえあるわね。そうしたら借金なんて払えないから、借金取りの方は大損ね!」
ちょっとわざとらしいかしら、と思いながらもメリッサは声を上げてみせた。
胸の内ではこういうのって職業病というのかしら?と思いながら。
怪我人を、しかもちゃんと手当てされていない傷を見ると放っておけないのだ。
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