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自覚が足りないと言われればその通りなのだろうけれど。
「……終わったんならもういい?」
聞こえよがしにため息をついてそう言うと少女が立ち上がった。
「まあ、手当てをして頂いたのになんて態度を!」
憤慨するメイドを視線を向けて宥め、メリッサは自分も座っていた椅子から立ち上がると「ちょっと待って」と少女に声をかけた。
船員に備えつけの棚から丸薬を3つと薬液の入った瓶を一つ取り出して少女の手に乗せる。
「痛み止めと化膿止めの薬。こっちの丸薬は痛みの酷い時に、こっちは朝と夜食事の後に一匙飲んで」
「……」
「え?」
メリッサの言葉に少女は小さく口の中で何かを言った。が、俯いている上にその声は小さくて、メリッサには聞き取れなかった。
「あの、なんて?」
「……金、ないけど。薬代」
ボソボソと少女が言う。
「いらないわ。さっき言ったでしょう?趣味みたいなものだって。私が勝手にしたくてしただけなんだから。むしろあなたにとっては余計なお世話でしょう」
いやむしろ迷惑だったしれない。とメリッサは今更ながらに思った。
一応彼女の上司らしい男には客の我が儘で通したつもりではあるが、だからといって彼女が何も言われないとも限らない。
口だけならまだ良いが……。
メリッサはちら、と少女の手に巻いた包帯を見る。
手の甲から手首にかけての火傷。
あれは誤って湯をかけたりしたようなものには見えなかった。
(……まるで熱い鉄板にでも押し付けられたみたいだったわ)
メリッサの視線に気づいたように、少女はさっと自身の左手を後ろに隠すと口早に「じゃ、もらっとく」と言って薬をズボンのポケットにねじ込んだ。
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