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そのまま足早に部屋を出て行く背中を見送っていると、「奥様」という固い声に首を竦める。
「このようなことは二度とお止め下さい。お優しいことは美徳ですが、何も考えずに行動することは愚かなことですわ」
「……えっと、ごめんなさい」
「旅客船とはいえ、おかしな者が紛れ込んでいないとは限らないのですよ」
「……はい」
呆れの隠しきれない口調にメリッサはシュンとなってしまう。
メリッサはいつもこうだ。
貴族の奥方ならば身も知れぬ船員の少女を部屋に入れて手当てなんてしないものだし、これが継母ならばメイドの言葉にだって「メイドのクセになんて口の聞き方を!」と叱責していたように思う。
一応伯爵家という貴族の家に生まれて、公爵家の妻になったというのに、いつまで経ってもメリッサは貴族らしからぬまま。
「ごめんなさい、疲れたみたい。少し横になるわ」
そう告げてベッドに腰を下ろしたメリッサに、メイドは「かしこまりました」と一礼する。
「お食事はどうなされますか?」
「悪いけど後で軽い夜食を持って来てくれる?」
顔を見ずに告げたメリッサにまた「かしこまりました」と一礼して、メイドが部屋の外に出る。
パタンとドアが閉まる音を聞きながらメリッサはベッドに突っ伏した。
ふと、パタパタという音がした。
窓を叩く雨の音。
いつの間に降り出したのか。
(さっきまで晴天だったのにね)
海の天候は変わりやすいという話を聞いたことがあるが。
あまりひどくならなければいいが。
ボンヤリとそう思いながら、メリッサは目を閉じた。
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