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「……どんな女性なのかと思えばずいぶん地味なこと」
「敗戦国のしかも男爵家ですって?どうしてそんな人が」
「聖女ですって」
「とてもそうは見えませんわ」
「ご自身が相応しくないと気づいてらっしゃらないのかしら」
「田舎くらい小娘」
「薬師だそうよ。……どうりで泥臭いこと」
ひそひそ。
クスクス。
優雅に扇で口元を隠しながら交わされる華やかな淑女たちの言葉。
忌々しげな刺のある視線。
クロイスにエスコートされて出席したいくつかの夜会。
招待されて訪れたお茶会。
表立って口に出す人はいない。
それでも小声で交わされる言葉はメリッサが一人になった隙を見計らってわざと耳に入るように計算されたもの。
視線を向けて見れば素知らぬ顔で口を噤み瞳に嘲笑を浮かべる令嬢に夫人たち。
その口でクロイスと二人挨拶をすれば「可愛らしい方ですわね」「本当に素敵なお嬢様でお似合いですわ」と赤い唇を歪ませて言う。
いくら帝国が自由な気風であるにしても、やはり貴族らしい貴族はいる。
まして公爵であり国の英雄ともいうべき若き将へ娘を嫁がせたいと考えていた親は少なくはなく、その娘たちにしても見目麗しい姿を見れば恋い焦がれていた者はけして少なくはないはずで。
チクチクと胸を差す刺にメリッサの心は傷つけられていく。
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