1306人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
わかっていたこと。
当然の帰結。
そう思ってはみても、だんだんと外に出るのが苦しくなって。
気がつけば貴族の付き合いからは逃げ出して街に出ている。
「わたくしの方が貴女なんかよりずっと相応しいのに!」
皆が密やかに囁く中、月明かりの差すベランダでそう言い放ったのは赤いドレスの少女。
侯爵令嬢だという銀髪の少女の名はなんといったのだったろうか。
ぐらりと身体が大きく揺れて、メリッサはうっすらと瞼を開けた。
視界がぐらぐらと揺れている。
頭の中をいくつもの声が渦巻いているようだった。
「……ここ?」
一瞬、自身がどこにいるのかわからずに目を瞬く。
ついで船の中だということを思い出して息をついた。
そう。--船の客室だ。
豪奢な夜会の会場でもなく瀟洒な庭でもなく。
顔を上げると乱れた髪がべったりと額に張り付いてひどく汗をかいていたことに気づかされる。
こめかみがズキズキと痛むのは見ていた夢のせいか、それともこの揺れに酔ったためか。
サイドテーブルに置かれた水差しに手を伸ばして起き上がろうとした足下の床が一段と大きく揺れて、メリッサはバランスを崩した。
最初のコメントを投稿しよう!