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――潮の香りがする。
客室の窓から見える青い景色は青。
雲一つない晴天の青い空に濃い藍色に白い波が浮かぶ海。
見慣れぬ、そして美しいその景色に魅せられたメリッサは思わず手を休めて窓の外を覗いた。
メリッサの手元にあるのは様々な薬草や小さな薬液の小瓶。
数ヶ月前。
メリッサは当時の婚約者から婚約破棄された。
本来なら正式な婚約の発表が成されるはずの夜会の席で婚約者の隣に寄り添っていたのはメリッサの腹違いの妹――マリエラ・ドヴァン。
メリッサはその場でマリエラへ毒を盛って殺そうとしたという罪を断罪され、一切の釈明も許されぬまま家を追い出された。
その後、紆余曲折を経てメリッサは今の夫――クロイス・ヘルトバルトの妻となった。
時間にしてみれば一年にも満たない時間。
その人生に於いてはごく僅かの時間に、メリッサの周囲はずいぶんと変わってしまった。
伯爵家の長女として婿を取り、夫となる人と一生を領地で過ごしていくはずだったのに。
何故か敵国の公爵であり魔王と呼ばれる男――クロイスと出会って恋をして、彼の妻になった。
そうして一月。
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