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「静かに。絶対に声は出すな、音も立てるな。……いい?あたしらは船を離れる時に仲間への合図で空砲を三発鳴らす。それまで我慢しな」
「……待っ、て。他の皆は?」
「寝てる人間にまで手は出さないよ。あたしらは頂けるものを頂いたらそれでとんずらするだけさ。……目当てのものさえ手に入れれば、ね。それまでは何があっても外にでるんじゃないよ」
「どうして……?」
「なに?」
メリッサは一つ息をついた。
「どうして私を隠したの?」
少女は海賊の側のはずだ。
メリッサをわざわざ隠れされた上に忠告まで寄越す必要なぞどこにもないはず。
メリッサは若い女で一等船室の乗客で護衛やメイドから「奥様」と呼ばれる立場で。
海賊からすれば身の代金目当ての人質にするにも、どこかに売るにしてもけして価値のない獲物ではないはず。
「ああ」
と笑い含みの声が聞こえた。
「まあ、なんつーか?一応お礼?」
「お礼?」
「そ、手当てしてもらっちゃったからね。じゃっ、しばらくそこでおとなしくしてな」
そう言って少女は離れていったようだった。
落ち着いた足音がだんだん小さくなっていく。
メリッサはその音を聞きながら、自身を落ち着かせようと手に触れた箒の柄らしき棒をぎゅっと握り締めて目を閉じた。
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