1303人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
その日もメリッサは診療所で夕刻まで働き、目立たぬように職場を少し離れてから迎えの馬車に乗り込むということをして邸へ帰宅した。
「奥様、旦那様からお手紙が……」
そう言ってメイド頭が一通の手紙を差し出したのは湯船で汗を流して部屋着に着替えさて寛ごうかとしていた時のこと。
このメイド頭はクロイスが子供の頃から邸でメイドをしていた女性でクロイスの信頼も高い。メリッサがこの邸に来てから一番お世話になっているのも間違いなく彼女だ。
「ありがとうございます」
礼を言って受け取りながらも、メリッサは内心で首を傾げた。
何故ならメイド頭――アンナ夫人は無表情が標準装備されているような女性なのである。
けれど、今の彼女は明らかに上機嫌で。
メリッサが封を開けて手紙を読み進めると。
「ふふふ、よろしかったですわね。奥様」
そう言って彼女には珍しい笑みを見せた。
(ああきっと夫人たちには別に手紙で指示が為されているのね)
帝国には離れた土地からでも通信を可能とする魔導具があるが、それなりに高価なものであるためあまり普及はしていない。使われるのは主に戦場で通常の連絡は王国と同じ手紙でのやり取りとなる。
最初のコメントを投稿しよう!