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少女はメリッサの声が自分に向けられたものと気づかなかったのか、あるいは気づいていてあえて知らぬふりをしたのか、ちらりと視線を向けただけでそのまま立ち去ろうとする。
「待って!」
「奥様?」
背後にいたメイドが、どうしたのかと目を見張るのに、「ごめんなさい」と小さく告げて横をすり抜けメリッサは少女の元へ走り寄った。
「あなた、その手!」
近くで見ると少女の波打つ髪は赤というよりオレンジがかった茶色だった。
光に透けると赤く染まる。
けれどメリッサが気になったのはそれよりも少女のその髪を抑えていた左手。
日に焼けたその手には布が巻かれている。
明らかに適当に巻き付けただけの布の端から覆いきれない傷が覗いていた。
赤く腫れ水膨れのできた肌。
手の甲から手首にかけて。
まだ出来てさほど経っていないだろう火傷。
「……なに?忙しいんだけど」
あからさまに迷惑という顔で、少女がメリッサを見返してくる。
「忙しいって。でも酷い怪我だわ。きちんと手当てをした方がいいわ」
メリッサは軽く上がった息を整えながら、少女の前に立った。
少女はというと、
「余計なお世話」
というと、怪我をした左手をヒラヒラと振って見せる。
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