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新妻お披露目会
「コイツの料理は冷凍物ばっかりで、チンするだけなんです!」
夫は自分が勤める店舗の上司や同僚たちが開いてくれた新妻お披露目会でこう言い放った。婚姻届提出からすでに半年も経過してから、ようやく夫は自分が結婚していた事を会社に報告したからだ。しかも私が夫に何度もせっついてようやく、である。
冒頭のこのセリフだと、冷凍食品や冷凍食材を電子レンジで温めるだけでまともに料理をしていないかのような印象を与える。だが夫・桜井学はこのセリフを言い放ち、私を笑い者にした。彼は自分の新妻お披露目会の席上で、主役である新妻の私・芙蓉を笑い者にしたのである。自ら積極的に。
だが私は冷凍食品を買ったことなどない。料理を多めに作って家庭冷凍保存しているのだ。
デパートの仕事が遅番の日は、帰宅してからご飯を炊いている暇はない。だからと言ってチンするだけで食べられるレトルトご飯を買ったことなど一度もない。
ご飯は休みの日にまとめ炊きして、熱いうちに一膳分ずつラップで包むのだ。そうするとラップの内側に水滴が付く。これがポイントだ。そして粗熱が取れてから家庭冷凍保存する。そうすればレンジでチンするだけで「炊きたての味」が再現できるからだ。
食材に関して言うと、買ってきた生しじみやキノコは、わざわざ一旦凍らせてから調理していた。凍らせると旨味成分が増えるから、面倒だがあえてそうしていたのだ。
誤解を解こうとこれらの事実を説明しても、夫のセリフですっかり誤解した彼らは、私のことを「恥ずかしい秘密を暴露され、必死で言い訳する料理が苦手なダメ奥さん」扱いしてあざ笑い続ける。彼らの理解力は低く、どんなに論理的に説明しても理解できないのだ。
しかも横から夫が、「言い訳必死だな!」とか「見苦しいぞ!」とか「結局チンするだけだろ!」と説明の邪魔をするものだから、そのたびに彼らは大笑いする。彼らが大ウケすると夫はますます調子に乗り続けた。
私は小学生の頃から毎日一人で夕食を作らされていたので、料理は得意だ。母の手伝いをしていたのではない。専業主婦の母から全面的に押しつけられていたのだ。
中学からは毎朝お弁当も作っていたので、手早く効率的に調理できる。中学から自分のおこづかいで料理雑誌を定期購読していたので、より美味しく調理する新常識や裏技も知っていた。
それなのに事実とは真逆の「料理が苦手なダメ奥さん」扱いされるのは心外でしかなかった。悔しかったが、酒を呑んでいる彼らには論理も道理も通じない。私はあきらめて黙り込んだ。帰りたかった。
なぜ夫が私に対してこんな仕打ちをするのか理解できなかった。意味がわからなくて、悪夢を見ているような気分だった。彼はなんのためにこんな事をしでかしたのだろうか? よりにもよって自分の新妻お披露目会の席上で。自分の勤務先の上司や同僚たちの前で自分の妻を笑い者にするとは、いったい何を考えているのか? 当時はわからなかったが、これはモラハラだったのである。
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