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アンタレスの心臓
「星良は世界の終わり、本当に来ると思う?」
終業式の帰り道、宮原陽香はアイスを片手に屈託ない顔で私に問いかけた。
「世界の終わりって、あのネットの噂?もしそれが本当なら、今頃世間はもっと大騒ぎになってるんじゃないかなぁ」
私は紙パックのジュースをストローで飲みながら陽香の話を聞いていた。
「それ!本当にヤバいことだから国民には隠されてるんだって!もし仮に、一週間後に世界は終わります、なんて政府が発表したらみんなパニックになってどんな暴動が起こるかわかったもんじゃないでしょ?だから秘密にされてるんだよきっと」
ここ数日、巷で話題になっている噂がある。事の発端は匿名掲示板への書き込みだった。最初のうちは、一か月以内に世界の終わりが訪れて人類は滅亡する、という特に目新しくもない内容の書き込みを本気で信じる人はほとんどいなかった。しかし、その書き込みの後から日本の各地で数多くの流星が観測されるようになり、「多くの星が流れ 多くの人間が死ぬ」という書き込みと関連付けて考える人々が現れるようになったのだ。幸い、隕石の落下による死亡事故の報告はまだ上がってきていないのだけれど。とはいえ、不定期に現れる流星群は異常とも思える数で、観測史上未だかつてない出来事だとニュースでも報道されていた。
「でもその書き込みは日本だけの話なんでしょ?それに世界の終わりってそんな世界規模の話、いくらなんでも隠し通せるとは思わないんだけど……」
「だーかーら現に今こうして話が漏れちゃってるワケじゃん?お偉いさん方はもう既に宇宙に逃げてるってウワサ!だってこんなに流れ星が見られることなんか今までなかったしさ、昨日の夜も見た?気付いたのが遅くて一瞬しか見られなかったけど、すごかったよ!見晴らしの良い場所で見たらさぞ絶景だろうなぁ!」
もしかしたら、という気持ちがないわけではないけれど、基本的にネットの噂は信じていない私に対して、どうやら陽香は人類滅亡説を信じているらしい。それにしても、世界の終わりが来るというのにどうしてこの子はこんなに楽天的でいられるのだろう。
「でさ、例のあれ、今夜やるんだよね?」
陽香は悪戯っぽい笑みを浮かべながら私に聞いた。
「勿論!今夜零時、学校の屋上集合ね!」
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