宵祭

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 祭りは想像以上の大層な人出だった。この小さな田舎町のどこにこれだけの人間が隠れていたのだろうか、こんなことなら待ち合わせ場所はもう少し離れたところにしておけばよかったなと思いつつ辺りを見回す。  いた。夜店の明かりに照らされて色めく雑踏から少し外れたところで、所在無げに佇む小柄なその姿を認めて近づく。山吹色と白の地に、橙色の花を散りばめた浴衣を紅の帯でまとめ、小さな竹籠を手に提げている。僕の装いは藍の麻地に鼠色の縦縞を流した浴衣、こげ茶の信玄袋というものなので比べると随分と華やかだ。暗がりに紛れて顔は見えないが、通り過ぎる大群衆を横目に、ボブカットに整えた黒髪の襟足をそわそわと揺らす落ち着きのなさはおそらく彼女で間違いないだろう。果たしてこちらに気づき、振り返って「遅いよ」と愚痴ったその彼女こそ僕の待ち合わせ相手、三門千穂であった。――遅刻ではないはずだけれど。 「ちょうどだよ」 「それが遅いの」 「何分前に来たの?」  少し黙ってからそっぽを向いて、 「……五分」  三十分だな。 「はしゃぎすぎだよ、三門さん」  またそっぽをむく。  二十分で着くところを、僕が二時間前に出かけようとして親に止められたことは内緒だ。
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