ゆきのちゃんのほっぺ

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 それは証拠にならない。その事を本人も分かってはいる。鷲尾の言う事が真実ならば、朝の五時の段階で足跡があったと言う事になる。 「それで、多分だ。はっきり見たわけじゃないけど、小柄な男が居たんだ。散歩しているだけかも知れないし、黒いコートの若い奴なんて、あの辺りには幾らでも居るから、確信は無いけど、居たんだ。男が、多分な」  小柄な男と聞くと虎次を思い浮かべるが、五時頃と言えばちょうど、ユイカが四時半に帰ってきて、その時、炬燵で丸くなっていた虎次にはアリバイがある。 「でも俺、ユイカが心配でさ。百回くらいチャイム鳴らしたんだぜ。それなのに、お前自分ちで寝てたんだって、あの時虎に電話してなければ、俺雪乃んちのドアぶっ壊してたぞ。危なかった」 「心配してくれるんだね」  ユイカは照れながら水を飲む。口角が上がり幸せそうな表情。 「別に、友達だからな。当たり前だろうが、それで大学着いたら、サボるから代返よろしくと連絡が来たわけだよ。帰るとき、やっと虎に会えて昨日何が起こったか話し合って誤解は解けた。ちなみに雪乃の代返は上手くいった」 「ちょっと、私のは」  ごめんと鷲尾は頭を下げる。合わせて雪乃もごめんと頭を下げる。顔をあげると既に表情は頬に空気を溜め、膨れ顔に変わっていた。     
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