「はやく」

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まだ、月が輝く深夜2時。 なんだか肌寒くて、目が覚めてしまった。 眠りにつくときには、 隣にいたはずの温もりを寝ぼけ眼で探す。 なかなか、見つけることが出来ない。 覚めてきた目で、辺りを見渡す。 ハンガーにかけてあった上着も、 いつもかけている眼鏡も、 溶けてしまったかの様に、なにもない。 布団に少しの温みがあるだけで、 君は、どこにもいなかった。 ヒュッと、通った冷たい風に、 自分は、 この夜の街の、 小さなアパートの、 小さな寝室の、 小さなベットの上で、 ただ、独りである事を、自覚させられた。 自覚した途端、ぶるり、背筋が震えた。 残っていた僅かな温もりも、 自分を見捨てる様に、何処かへ行ってしまった。 この部屋に、自分以外の体温はない。 全てが冷たい夜の街の物になってしまった。 窓ガラス越しに空を見る。 輝いていた月も、何処か温みを持った光を 雲に隠してしまった。 「ねぇ、何処にいっちゃったの。」 君が居ないと、こんなにも哀しくなるとは。 布団の上で三角座りをして、 体温を失くさぬ様に、足を摩る。 はやく、はやく。 心の中で、夜の闇に紛れた君を催促する。 「はやくあたためて。」
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