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「ポニーテールになんかしてるからだ。それではわざわざ稚児にしてくれと言わんばかりじゃないか」
少年の嘆きの理由を知っているわたしは、わざと茶化すように言う。
「これはポニーテールとはちがいます」
それを察した少年が、くすりと笑う。少女のような容貌が少しだけ艶めかしくなる。
「何もかも、過ぎたものは重荷にしかならないんですね」
「自覚してるの」
つい眉をひそめる。確かに自分もこの少年を美しいと思っているというのに本人からそれを聞くと眉をひそめてしまうのは、ひそやかさを好む日本人の習性からなのだろうか。この習性も間違っているとは思うのだが、しみついたものはなかなか消せない。
少年は冗談めかして謝ったあと、静かに「けれど」と続けた。
「他の美しいものをいとしいと思いこそすれ、私は私をいとしいとは決して思いません。
私は、私が、とても疎ましい」
そう言い、口惜しそうに空を見上げる。
今宵は上弦。星は見えない。
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