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ミンミンミン。
そこのあなた、前を見ないと危ないですよ。ほら、電柱にぶつかった。
ミンミンミン。
ほらあなたも、前から人が来てる。皆、そんな黒い板よりも見るべきものがあるでしょう。
ミンミンミン。
どうしてみんな、私の声を聴いてくれないのだろうか。危ないことを教えてあげているのに。
「教えてあげるとは、なんと上から目線なんだろうか」
おや、猫さん。
「人間は自分のことで精いっぱいだからね。他の声なんて聞いちゃいないのさ」
でも猫さん。人間は他の生き物よりお喋り好きでしょう? なのに聞いてない、というのはどういうことなんでしょう。それに人間の中には、立ち止まって私の声を聴いてくれる人もいます。
「夏だもの、そりゃ蝉の声を聴くものさ。聞きたくなくても聞えてくる。人間は自分が蝉の声を聴く余裕がある、といった姿を周りに見せたいだけなんだ。それに喋り好きだからって、相手の話を聞いてるわけじゃない。自分が喋るのが大事なんだ」
ジージリジリジリ。
どういうことなんですか。
「自分の主張を伝えることが目的なんだ。一方的な会話は会話じゃない」
ジージリジリジリ。
意味が分かりません。
「会話って、私はこう思っていますあなたはどうですか、私はこう思います。こういうもんだろ。でも人間のは、私はこうです、私はこうですって一方通行だ」
ジージリジリジリ。
何を言いたいんですか。
「人間が求めてることは、自分が何を求めているか言って、相手が二つ返事で聞いてくれることか、自分の意見は素晴らしいと絶賛されることだ。つまり自分以外に興味がないんだよな。自分が一番で、他人はよいしょするだけの存在でいい。自分の言うことを聞いてもらえるのは、気持ちがいいからね」
ジージリジリジリ
なるほど、わかったようなわからないような。
「君もほかの生物が何を言っているか、もう少し興味を持ったほうがいい」
ジージリジリジリ。
?
「同じ蝉が言っているのにわからないか。君も、自分の意見の主張で精いっぱいで、他の人が何を言っているか耳に入らないんだね」
ジージリジリジリ。
「やはり上から目線はだめだな。じゃ、いただきます」
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