あなたと一緒に

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3年前から私は健さんに片想いをしていた。 当時私は前の職場から転勤して一人暮らしを始めていた。慣れない職場環境、生活に苦労が絶えなかった。でも、個人の問題で仕事が回らなくなるのは申し訳なく、家族にも大丈夫の一点張りを通していた。それが限界に近づいていた時、ふと立ち寄った本屋で彼に出会った。 店に入ると、エプロン姿の彼は私に向けて小さく会釈をした。私も彼に会釈をすると、店内を見渡した。どこの店でも、足を踏み入れたからには何か買わなければと思ってしまう私は、買うはずではなかった一冊の小説を手に取り彼のいるレジへ向かった。 -あ、これ。 -へっ? 小説を見て彼は口を開いた。どうやら最近読んだらしく目を輝かせながら私に感想を伝えてきた。 -だーっ!今から読む人に一番やっちゃいけないやつやっちまった! 彼は我に返るとすごく反省した様子で頭を抱えた。 -大丈夫ですよ。逆に、それほど面白かったのか!って読みたくなりましたから。 彼は私の言葉を聞くと少し安堵した様子で本にレジを通した。 _あれ? -サービスです。僕からの紹介だと思って受け取ってください。 彼は本にカバーを取り付けたあと、そのまま私に渡したのだ。彼の中では感想を先に言ってしまったという後悔が消えないらしく、代金は自分の財布から出しておくからそのまま受け取ってほしいというのだ。払うと言ったのだが、引く様子が全く無かったのでありがたく受けとることにした。 この事がきっかけで、私は本屋に足を運ぶようになった。 彼に会える、話せる、それだけで1日1日を乗り越えられた。 でも私の幸せは、ある日突然失われた。丁度一年経った頃だろうか、私はいつものように本屋に足を運ぶとレジに彼の姿はなく、代わりに店主が座っていた。辺りを見渡しても彼の姿はない。すると店主が私に気付き重い足取りで近づいてきた。 -君が○○さんかい? -は、はい。 そう聞くと店主は急に目頭を熱くさせてこう言った。 -彼の事なんだが、今朝連絡があってね、亡くなったそうだ。 彼は元々すい臓がんでね、気づいたときには手術の使用がないくらい進行していたそうだよ。そのまま病院で抗がん剤等を使って生き延びる手だてもあったらしいが、彼は自分の好きな本と過ごしたいと言ったそうだ。
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