I loved you

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ここは、海の見える街。港すらない、小さな街。 都会の喧騒とは全く無縁の、美しく優しく穏やかな街。 兄と慕う男とその夫に連れられて、数日前から旅行にやって来ていた。 シンプルな作りのコテージは、それぞれカップルで泊まることができるように手配されていた。今日は侑介と壮太が泊まるコテージでの食事会。 2人は協力して大皿の料理を3品とデザート1品を作り終えたばかりだった。 開け放った窓越しに、波の音を聞く。歩いて10分くらいのところに砂浜がある。砂浜沿いに東へ歩いたところに小さな商店があって、そこに買い出しに行っている男夫婦を待っているところだった。キッチンドリンカーと化していた壮太はほろ酔い加減。エプロンをつけたまま、キッチンの木枠の窓のところにどんと椅子を置いて、外を眺めては「いいなぁ」とか「綺麗だなぁ」とかそんなことばかり言っている。この街の雰囲気からくるものか、その横顔はいつもの壮太のようでちょっと違うように見えてくるから不思議だ。侑介もつられて椅子を並べて、同じように木枠の向こう側の景色を見ている。電車の中から旅空を見ているようだった。 「月すごいね、絵に描いたみたい」     
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