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すると再び立ち上がって、冷蔵庫に向かって歩きだす。中から再び三五缶を取り出すとプルタブを開けた。
「え、兄さんたちそろそろ酒買って帰ってくるのにまだ飲むの?」
声をひっくり返して尋ねると、これくらいいいでしょなんて笑っている。
「じゃなくて、和歌の話」
缶を持った指先で、侑介を指差しながらそれた話を軌道に戻す。
「仕入れた知識披露したいじゃん、ちょっと付き合ってよ」
「はぁ」
別に忙しくもなく、ただ人を待っているだけだから、その知識披露に付き合うことにした。定位置に戻ると、壮太先生の講義が始まる。
「西行って知ってる? 昔の人。その人と月に関する本を読んでたの」
「随分難しそうなの読んでるじゃん」
絶対に興味のなさそうな本なのに、と思いながらもそこは口には出さなかった。
「それは気まぐれでね、書道関係なく」
少し照れ臭そうに言いながら、軽く咳払いする。
「その中に“君にいかで 月にあらそふほどばかり めぐり逢ひつつ 影を並べん”っていうのがあんのね」
「はぁ」
侑介の頭は壮太と和歌の関係がうまく紐付けされておらず、壮太の話をうまく消化できないままだった。しかしそれすらどうでもよく感じさせてしまう、まったりとした空気がとめどなく流れる。BGMのように、壮太の話に耳を傾けた。
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